【実話】「倒産したから経費にした」は通らない?
── 貸倒損失で“分けて節税”しようとして失敗した内装業者の話
「取引先が倒産した。
もうお金は返ってこない。
だから、その分を経費にして税金を減らそう。」
こう考える人は、実は少なくありません。
でも――
やり方を間違えると、税務署から否認され、ペナルティまで課されることがあります。
今回は、
実際に起きた裁決(税務署と納税者が争った事例)をもとに、
- 何が問題だったのか
- どこを間違えたのか
- どうすればよかったのか
を、税務の知識がない人でも分かるように解説します。
目次
ある内装業者に起きた出来事

この事例の主人公は、
内装工事業を営む個人事業主です。
彼は、工事代金の支払いとして、
現金ではなく「約束手形」を受け取っていました。
ところが――
- 手形を出した会社が経営悪化
- 手形はすべて不渡り
- 取引先は事実上、倒産状態
つまり、
工事代金は回収不能になってしまったのです。
そこで彼がやったこと

彼はこう考えました。
「このまま全部を経費にすると、
その年が大赤字になってしまう。
そうすると、公共工事の評価が下がってしまう…」
そこで彼は、
- 回収できなかった金額(約560万円)を
- 2年に分けて
- 「貸倒損失(=回収不能になった損失)」として計上
しました。
一見、
「現実的で、ちゃんと考えている処理」に見えますよね。
しかし――
税務署はこれを認めませんでした。
税務署の言い分

税務署はこう主張します。
- 確かに不渡りにはなっている
- しかし「いつ」「完全に」回収不能になったかが重要
- しかも、なぜ全額ではなく一部だけ経費にしているのか?
- 本当に回収不能だと言い切れるのか?
そして結論として、
「この処理は認められない。
税金を計算し直します。」
と、更正(税金のやり直し)と
**過少申告加算税(ペナルティ)**を課しました。
納税者は納得できず、争いに

当然、この内装業者は納得できません。
「倒産しているのは事実だ。
弁護士からも“配当はゼロ”と聞いている。
回収不能なのは明らかだ。」
として、
税務署の処分を不服として争いました。
審判所(第三者機関)の判断

ここで、冷静な第三者である
国税不服審判所が判断を下します。
結論から言うと、
✔ 貸倒損失そのものは認められた
❌ ただし「分割計上」は完全にアウト
でした。
なぜ「分けて計上」がダメなのか?

ポイントはここです。
貸倒損失は、
「徐々に減る損失」ではありません。
- 売上の調整 → 分けてもOK
- 減価償却 → 毎年少しずつOK
でも、
貸倒損失は「ある日を境に、資産がゼロになる」ものです。
つまり、
回収不能になったと判断できた年に
全額を一気に経費にする
これが税法のルールです。
審判所が認めた「回収不能のタイミング」

この事例では、
- 和議(話し合いによる再建)を申し立てたが失敗
- 事業に必要な免許も取り消された
- 会社は事実上、活動停止
- 弁護士・代表者とも「もう配当は出ない」と明言
こうした事実から、
その年には、もう絶対に回収できない
と判断されました。
だから、
- その年 → 全額OK
- 翌年 → もう計上するものがない
という結論になったのです。
結果どうなったか

- 最初の年の税金 → やり直しは取り消し
- 翌年の税金 → 税務署の判断が正しい
- ペナルティ → 翌年分は有効
という、一部勝ち・一部負けの結果になりました。
この事例から学べること

① 「気持ち」は税金の計算では通らない
経営上の事情や不安は理解されますが、
税法は感情調整の道具ではありません。
② 貸倒は「調整」できない
「赤字になるから分けよう」は、
税務上は通用しません。
③ 判断のタイミングがすべて
- いつ回収不能と言えるのか
- 客観的な証拠はあるか
ここが一番重要です。
最後に

この内装業者は、
決してズルをしようとしたわけではありません。
むしろ、
「事業を守ろう」と考えた結果の判断でした。
しかし――
税務の世界では「正直」でも「間違い」は間違いです。
だからこそ、
- 一人で判断しない
- グレーな処理を自己流でしない
- 専門家や仕組みに判断を預ける
ことが、結果的に自分を守ります。
お金の不安は、
「知らなかった」ことで大きくなります。
この事例が、
同じ失敗をしないためのヒントになれば幸いです。
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この記事を書いた人

- 公認会計士・税理士
-
所属 公認会計士協会中国会 中国税理士会
公認会計士 第31637号
税理士 第128479号
1977年広島県呉市生まれ。会社が倒産した祖父と同業で起業した父の後ろ姿を見て育つ。青山学院大学経済学部卒業後、大手監査法人で幅広い業種の監査やコンサルティング業務を経験。その後、祖父及び父の経営していたような中小企業や個人事業主・フリーランスを助けるべく奮闘中。
日本全国の無申告・税務調査の対応件数は過去4年間で700件以上。IT/AIを駆使した業務効率化とサービス提供を行い、多くのお客様に最善のサポートを行っている。
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