【実録】中間名義を使った不動産売買の末路|約2,700万円の追徴税と重加算税をとられたケースをやさしく解説
不動産を売って利益が出ると「譲渡所得税」がかかります。
金額が大きいぶん、税務署がもっとも目を光らせるポイント でもあります。
今回は、
「見せかけの買主(中間の人)を使って、売却額と利益をごまかそうとした結果、
約2,700万円もの追徴税(本税+加算税)を取られた」
という実際の裁決事例を、できるだけかみ砕いて解説します。
専門用語だらけの裁決文を、
スッと入る「ストーリー」 に変換していますので、安心して読んでください。

目次
1.主人公A男さんの状況と、税務署からの「ドン!」と来た更正
主人公は、不動産貸付業を営むA男さん です。
A男さんは、
- 平成元年
- 平成2年
に不動産を売却し、確定申告をしました。
◆A男さんが申告した内容(ざっくり)
- 平成元年
- 分離短期譲渡所得: 約79万円
- 納付税額: 403,100円
- 分離短期譲渡所得: 約79万円
- 平成2年
- 分離短期譲渡所得: 約198万円の赤字(マイナス)
- 納付税額: 0円
- 分離短期譲渡所得: 約198万円の赤字(マイナス)
「ちょっとだけ儲かった」「むしろ損してますよ」という申告です。
しかし、税務署が調べた結果はまったく違いました。
◆税務署が認定した内容
- 平成元年
- 分離短期譲渡所得: 31,154,223円(約3,115万円)
- 納付税額: 13,031,400円
- 分離短期譲渡所得: 31,154,223円(約3,115万円)
- 平成2年
- 分離短期譲渡所得: 18,368,116円(約1,837万円)
- 納付税額: 7,478,900円
- 分離短期譲渡所得: 18,368,116円(約1,837万円)
さらにペナルティとして
- 過少申告加算税:
- 元年分 56,000円
- 2年分 18,000円
- 元年分 56,000円
- 重加算税:
- 元年分 4,221,000円
- 2年分 2,551,500円
- 元年分 4,221,000円
も課されています。
◆どれくらい痛いか、ざっくり計算
- 本税の増加分
- (13,031,400円−403,100円)+7,478,900円
≒ 20,107,200円(約2,010万円)
- (13,031,400円−403,100円)+7,478,900円
- 加算税(重加算+過少申告)合計
- 4,221,000+2,551,500+56,000+18,000
= 6,846,500円(約685万円)
- 4,221,000+2,551,500+56,000+18,000
合計すると、
約2,700万円近い追徴負担 となりました。
ここまで税額が跳ね上がった理由は、
A男さんが「本当の売り先」と「金額」をかなりごまかしていた、と税務署に判断されたからです。

2.争点①:平成元年の土地売却──本当の買主は誰だったのか?
●A男さんの主張
A男さんが売ったのは「R町の土地」。
これについて、A男さんはこう主張しました。
・買主はC男さん
・売却額は 113,700,000円(約1億1,370万円)
・その後、C男さんが別のD男さんに 142,640,000円(約1億4,264万円) で転売した
・自分はC男さんの代理として、D男さんから1億4,264万円を受け取っただけ
・差額2,894万円はC男さんの利益で、自分の利益じゃない
つまり、
「自分は安く売っただけ。高く売ったのはC男さんで、その分の税金まで自分にかけるのはおかしい!」
というロジックです。
●税務署側の見方
税務署は、
「いやいや、最初からA男→D男の直接取引でしょ」と主張します。
その根拠として、C男さんの実態を徹底的に調査しました。

3.税務署がつかんだ事実:C男さんは“取引できる状態じゃなかった”
調査の結果、C男さんについて分かったことは次の通りです。
- 80歳で、脳出血の後遺症 により言語障害・神経麻痺
- ほぼ自宅療養で、外出は朝の散歩くらい
常に奥さんが付き添う状態 - 昔は不動産業もしていたが、病気で廃業
収入は年金(約33万円)だけ - 平成元年に「大きな不動産取引」で儲けた形跡は一切なし
- 不動産仲介業者や買主が自宅を出入りしていた記録もない
これを踏まえて、審判所(税の裁判所のような機関)はこう判断します。
「C男さんが中間で土地を買い、転売して何千万円も儲けたとは到底考えられない。
したがって、A男→C男→D男という二段階売買は**『見せかけ』**であり、
実態はA男→D男の直接売却である。」
結果、R町の土地の売却額は
142,640,000円(1億4,264万円)
が正しいとされ、その全額がA男さんの譲渡収入として課税されました。

4.争点②:平成2年の土地建物売却──E男さんも“名義だけの人”だった
平成2年のT町の土地建物でも、ほぼ同じ構図です。
●A男さんの主張
・まず自分がE男さんに 91,177,000円 で売った
・E男さんがF社に 109,413,000円 で転売した
・自分はF社からの1億9413万円を代理受領しただけ
・差額や貸付金などを精算し、残りは現金でE男さんに返した
ここでも「自分の儲けは少ない」と言いたいわけですね。
●しかし、E男さんの実態は…
調査の結果、
- 大正7年生まれの高齢者で無職
- 生活費はわずかな軍人恩給(年約40万円)
- 昔、友人の借金の保証人になり、A男さんから約250万円を請求されていた
- その返済をチャラにする代わりに、A男さんから「書類にサインして」と言われ、内容も見ずに署名押印
- 後日、A男さんの指示通りに、税務署の前で
「自分が土地を買ってF社に売った」とウソの説明をした
ということが判明します。
つまりE男さんは、
「借金をチャラにしてもらう代わりに、
A男さんの“名義貸し”に付き合わされた高齢者」
だったわけです。
もちろん、1億円を超えるような不動産取引で利益を得た事実は一切ありません。
審判所の結論は、
「この取引も、実態はA男→F社の直接売却。
E男さんは中間にいる“見せかけの人”にすぎない。」
となりました。
結果として、T町の土地建物の売却額は
109,413,000円(1億9,413万円)
がA男さんの収入とされ、
さらに別の土地 105,000,000円と合わせて
平成2年分の譲渡収入は 214,413,000円
と認定されました。

5.なぜここまで重いペナルティがついたのか?
ここが一番大事なポイントです。
●①「中間をかませて利益を隠した」と判断された
A男さんは、
- 架空の売買契約書(C男・E男との契約)
- 実態のない“中間者ストーリー”
を使って、本当の売却額と利益を隠そうとした と見なされました。
税務署・審判所の表現では、
「事実を仮装し、所得を隠ぺいした」
となります。
これは、国税通則法でいう 重加算税の典型パターン です。
●②重加算税とは?
ざっくり言うと、
「わざとごまかして税金を少なくしようとしたときにかかるペナルティ税」
です。
通常の申告漏れよりも、かなり重い罰則 がかかります。
今回のケースでは、
- 元年分:4,221,000円(約422万円)
- 2年分:2,551,500円(約255万円)
合計で 約677万円の重加算税 が課されています。
さらに過少申告加算税も合わせて、ペナルティ分だけで 約685万円。
「ちょっとくらいバレないだろう」というノリでやった結果が、
数百万円の罰金+本税2,000万円オーバー という凄まじい結末です。

6.この事例から学べる3つの教訓
最後に、この事件から私たちが学べることを整理します。
教訓① 税務署は「書類」より「実態」と「お金の流れ」を見る
- 誰の口座に振り込まれたか
- 小切手の裏書はどうなっているか
- その人の年齢・職業・収入で、本当にそんな取引ができるのか
ここまで調べるので、
名義だけの“中間者”を使うトリックは必ずバレます。
教訓② 不動産の脱税は、バレたときのダメージが桁違い
不動産は金額が大きいので、
- ちょっとした過少申告
- 一度の仮装・隠ぺい
だけで、数千万円単位の追徴 につながります。
「税金がもったいないから…」と下手にごまかすくらいなら、
正面から節税を設計したほうが100倍マシ です。
教訓③ わからないなら、必ず専門家に相談する
- 中間者を立てる
- 譲渡益の配分を変える
- 実態と違う契約書を作る
こういった“グレーを超えた黒”の手法は、
短期的には得をするように見えても、長期的には人生を壊しかねません。不動産を売るとき、離婚で家を渡すとき、相続で不動産を処分するとき――
少しでも不安があるなら、必ず税理士に相談すること を強くおすすめします。

7.まとめ:税務署にはウソも演技も通用しない
今回の事例は、
「名義だけの人をかませて不動産を売ったフリをしたら、
全部バレて約2,700万円の追徴税を取られた」
というお話でした。
税務署が見ているのは、
- 契約書の“見た目”ではなく実態
- 誰がどれだけお金を受け取ったか
- その人にその取引をする能力・必然性があるか
です。
心の中でどう思っていたか よりも、
客観的な証拠と数字 がすべてです。
不動産の税金で迷ったときは、
「中間の人を立てれば節税になるのでは?」
ではなく
「まずは専門家に相談して、正しい節税ルートを作ろう」
と考えるようにしましょう。
無申告や税務調査に関するyoutubeはこちら👇
👇

この記事を書いた人

- 公認会計士・税理士
-
所属 公認会計士協会中国会 中国税理士会
公認会計士 第31637号
税理士 第128479号
1977年広島県呉市生まれ。会社が倒産した祖父と同業で起業した父の後ろ姿を見て育つ。青山学院大学経済学部卒業後、大手監査法人で幅広い業種の監査やコンサルティング業務を経験。その後、祖父及び父の経営していたような中小企業や個人事業主・フリーランスを助けるべく奮闘中。
日本全国の無申告・税務調査の対応件数は過去4年間で700件以上。IT/AIを駆使した業務効率化とサービス提供を行い、多くのお客様に最善のサポートを行っている。
最新の投稿
税務調査2025年12月11日【実録】中間名義を使った不動産売買の末路|約2,700万円の追徴税と重加算税をとられたケースをやさしく解説
税務調査2025年12月3日離婚で家を渡したら税金!? ― 40年支えた妻に家をあげた社長さんの悲劇 ―
税務調査2025年11月3日税務署はどこまで見ているのか?ギャンブル当選金とデータ追跡の裏側
無申告2025年10月22日税務署の担当に所得税だけ一気に払わされる
