離婚で家を渡したら税金!? ― 40年支えた妻に家をあげた社長さんの悲劇 ―

元・奥さんに家をあげた社長さんの裁決事例 ―

「離婚で家は全部元妻に渡したし、
夫婦で築いた財産なんだから半分は妻の分。
だから税金がかかるのは“自分の持ち分の半分だけ”でしょ?

……と思ってしまった社長さんが、本気で税務署と戦って負けた、という事例です。

この記事では、専門用語をできるだけ抜いて、

  • どんな人の話だったのか
  • 何を主張して、なぜダメだったのか
  • どんなルールがあるのか
  • 私たちがこの事例から学べること

を、税金が苦手な人向けにかみ砕いて解説します。

1. ざっくりストーリー(登場人物)

◆ 登場人物

  • 夫(請求人):会社役員。旦那さん側。
  • 妻(Aさん):専業主婦。40年近く家を支えてきた奥さん。

◆ 問題になった財産

夫名義の

  • 土地(2筆)
  • その上の自宅兼アパート(建物)

全部、登記(名義)は夫の名前だけです。

◆ 離婚のとき何をしたか?

調停離婚で、

  • 家と土地をすべて妻に渡す
  • さらに現金300万円も支払う

という内容で合意(財産分与+解決金)。

◆ 夫は確定申告でどう考えた?

夫はこう考えました👇

「この家や土地は、
夫婦で協力して築いた“共有財産”なんだから、
妻の持ち分 1/2 はもともと妻のもの。
今回渡したのは、
自分の持ち分 1/2 を妻に渡しただけだよね。
だから、譲渡所得の対象は“2分の1だけ”だ。」

その結果、

  • 不動産売却益(譲渡所得)の半分だけを確定申告
  • 税務署には「自分の持ち分は2分の1です」と説明

ところが……

2. 税務署&審判所の結論:

「全部あなたの財産です。全部に税金かかります」

税務署はこう判断しました👇

「この家も土地も、
名義も資金も全部あなた(夫)のもの。
妻は“持ち分 1/2 の本当の所有者”とは言えません。
だから、妻への財産分与は
家と土地“全部”をあなたが妻に譲渡したことになります。」

その結果、

 

  • 夫が申告していた譲渡所得の2倍の金額が課税対象に
  • 税額も大きく増え、
  • さらに**過少申告加算税(ペナルティ税)**まで取られました。
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3. 夫はなぜ「共有財産だ」と主張したのか?

夫側の言い分はこんな感じです👇

  • ①姻当初、妻の**持参金(100,000円)**があった
  • ②土地の借地権を取得するときの権利金 60,000円は、
    妻の持参金や生活費から出したはず
  • ③最初の家(旧建物)を建てるとき、
    妻の父が建築資材を送ってくれた
  • ④妻は40年近く専業主婦として、
    家事・育児・家計を支え続けてくれた
  • ⑤だから、この家や土地は
    “夫婦の協力で築いた共有財産”であり、
    持ち分は夫婦それぞれ 1/2 のはずだ

そのうえで夫は:

「持ち分のうち自分の1/2 の分だけ妻にあげたんだから、
税金がかかるのも 1/2 の分だけです」

と主張しました。

4. なぜその主張が通らなかったのか?

ポイントは 「名義」と「お金の出どころ」と「証拠」

審判所(国税不服審判所)は、冷静に事実を並べました。

① 名義はどうなっていた?

  • 土地の借地契約 → 夫名義
  • 土地の所有権移転登記 → 夫名義
  • 最初の家(旧建物)の登記 → 夫名義
  • 建替え後の家(現建物)の登記 → 夫名義

👉 全部、夫の名前。

② 資金はどう出ていった?

  • 借地権の権利金:夫の手持ち現金(と推認)
  • 土地購入資金:夫の勤務先からの借入 → 夫の給与+退職金で返済
  • 建物建築資金:夫名義の借入 → 夫の給与等で返済 → 最後は退職金で完済

👉 土地も建物も、基本的に「夫が借りて、夫が返している」。

妻の持参金や、妻の父の建築資材については、

  • 証拠書類が出てこなかった
  • 調査でも確認できなかった

ので、裁判所は 「そこを前提に判断することはできない」 としました。

③ 法律上の考え方(ここだけちょっと法律)

民法のルールでは 👇

  • 婚姻中に、一方の名義で取得した財産
     → 原則として**その人だけの財産(特有財産)**とみなされる
    (民法762条)
  • 夫婦として協力してきたからといって、
    自動的に**「全部2分の1ずつ共有」になるわけではない**

じゃあ、専業主婦の貢献は無視なの?というと、そこは

離婚のときの**「財産分与」**で調整してください

という仕組みになっています(民法768条)。

つまり、

  • 婚姻中:名義人=原則その人の財産
  • 離婚時:貢献度を考えて財産分与で取り分を決める

という二段構えです。

この事例では、

  • 婚姻中の家と土地 → 夫の財産(特有財産)
  • 離婚のときに、夫がその家と土地を妻に分与した
  • だから、税法上は
    → 「夫が自分の家と土地全部を妻に譲渡した」扱い

となります。

5. 税金の話:財産分与も「売った」とみなされる

ここが一番大事なポイントです。

◆ ポイント

離婚に伴う財産分与で家や土地を渡すとき
税務上は
「時価で売った(=譲渡した)」とみなされる
→ その差額に対して**譲渡所得税(不動産の売却益の税金)**がかかる

このケースでは、

  • 夫は「自分の持ち分 1/2 に対してだけ税金」と申告
  • 税務署・審判所は「全部あなたの財産なので、全部課税

結果として、譲渡所得の金額が

  • 夫が申告した額:約1,200万円

結果として、譲渡所得の金額が

  • 夫が申告した額:約1,200万円
  • 税務署が認定した額:約5,400万円

と、4,000万円以上も増えています。

当然、所得税額も大きく跳ね上がります。

6. さらに「過少申告加算税」というペナルティまで

夫は「半分は妻のものだと思っていた」「共有のつもりだった」と主張しましたが、

  • 資金の出どころの証拠も出てこない
  • 名義も借入れも返済もすべて夫
  • 法律の原則から見ても「夫の財産」と考えるのが自然

と判断され、

「少なく申告したことについて
国税通則法上の『正当な理由』はない」

とされました。

その結果、

  • 本税(本来払うべき所得税)が増えるだけでなく
  • その増えた部分に対して
    過少申告加算税(この事例では約122万円)
    というペナルティも追加で取られています。
黒板 まとめ

7. この事例から学べること(一般の方向けまとめ)

 ① 「夫婦で協力してきた=共有名義」ではない

  • 「一緒に頑張ってきた」「専業主婦として支えてきた」
    → 気持ちとしては完全に共有財産ですが、
  • 法律・税務の世界では

  • 名義は誰か?
    お金は誰が出したか?
    借金は誰が負って、誰が返済したか?
    が重視されます。

登記が夫名義だからといって、すぐに「奥さんの権利なし」とは言いませんが、
少なくとも「勝手に 1/2 妻のもの」とみなして申告するのは危険です。

② 離婚で家・土地を渡すときは「譲渡所得税」に要注意

  • 離婚の財産分与でも
    不動産を渡すと“売った”扱いになることが多いです。
  • 取得費や売却時の評価額によっては、
    数百万円単位の税金になることもあります。

「離婚で家を全部あげただけだから税金はかからないでしょ?」

という認識は、かなり危険です。

 ③ 「半分は相手の持ち分だから税金半分でOK」は通らないことが多い

  • 名義・資金・返済状況・証拠次第ですが、
    「なんとなく夫婦のもの」だけでは税務署は認めません。
  • 本気で「妻(夫)の持ち分がある」と主張するなら、

・資金の流れ

・合意書

・持分登記

など客観的な証拠が必要です。

④ 間違えると「本税+加算税」でダブルパンチ

  • 最初の申告を甘く見積もる
    → 後から税務署に否認される
    → 本来の税額との差額にプラスして
    過少申告加算税や延滞税がつくことも

「とりあえず自分の解釈で有利に申告して、
何か言われたら考えればいいや」

というスタイルは、
この事例のようにかなり高くつくことがあります。

8. 実務的なアドバイス(これから離婚を考えている人へ)

もしあなたが、

  • 離婚で家や土地を渡す予定がある
  • 「夫婦で築いた財産だから半分はあっちのもの」と思っている

という状況なら、以下は必須です👇

1.財産分与の前に税理士に相談する

  • 不動産の取得時期・取得費
  • どこのお金で建てたか・買ったか

ローンの名義と返済状況
を整理したうえで、
譲渡所得税がいくら出そうか試算してもらう。

2.「名義」と「資金の出どころ」を軽く見ない

「一緒に払ってきたつもり」でも、
口座や契約がどうなっているかで判断が変わります。

変に有利な解釈で申告しない

あとから否認されると、
本税+加算税+延滞税で、
メンタルも財布も削られます。

Wooden judge gavel on the mirror table.

9. さいごに

この事例の夫は、

「夫婦で協力して築いた財産なんだから、
半分は元妻のもの。だから課税されるのは自分の半分だけ」

と**“感覚的には”とても筋の通ったこと**を言っています。

しかし、法律・税金の世界では、

  • 名義
  • 資金の流れ
  • 証拠
  • 民法・税法のルール

が優先されます。

感情的・道義的な“正しさ”と、
法律・税務上の“扱い”は必ずしも一致しない。

これが、この事例の一番の教訓です。


もし、

  • 離婚に伴う家・土地の扱い
  • 財産分与と税金の関係
  • 自分の場合いくら税金がかかりそうか

などを事前に整理したい場合、
こういうケースを山ほど見ている税理士に相談してもらうのが一番早いです。

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この記事を書いた人

武信 隼人(たけのぶ はやと)
武信 隼人(たけのぶ はやと)公認会計士・税理士
所属 公認会計士協会中国会 中国税理士会
公認会計士  第31637号
税理士 第128479号

1977年広島県呉市生まれ。会社が倒産した祖父と同業で起業した父の後ろ姿を見て育つ。青山学院大学経済学部卒業後、大手監査法人で幅広い業種の監査やコンサルティング業務を経験。その後、祖父及び父の経営していたような中小企業や個人事業主・フリーランスを助けるべく奮闘中。
日本全国の無申告・税務調査の対応件数は過去4年間で700件以上。IT/AIを駆使した業務効率化とサービス提供を行い、多くのお客様に最善のサポートを行っている。

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