税務署はどこまで見ているのか?ギャンブル当選金とデータ追跡の裏側
「競馬や競艇で大きく当たったけど、税務署って本当に見てるの?」
「銀行に入れなければバレないんじゃない?」
そんな声をよく耳にします。
しかし、近年はマイナンバー制度や金融機関とのデータ連携により、税務署が個人の入出金を追跡できる範囲は確実に広がっています。
今回は、ギャンブル当選金の扱い方や実際の判例、そして今後のAIによるデータ追跡の動きまでを、税理士の視点で解説します。

目次
① 雑所得と一時所得の計算の違い
まず最初に整理しておきたいのが、ギャンブルによる所得の扱いです。
所得税法上、ギャンブルで得た当選金は**「一時所得」または「雑所得」**のどちらかに分類されます。
一時所得とは
- 一時的に得た利益(継続性がない)
 
- 例:懸賞・宝くじ・競馬の払戻金 など
 
課税対象額の計算式
(収入金額 − 支出金額 − 特別控除50万円)× 1/2
つまり、50万円までは控除され、その上で半分だけ課税対象になるため、
一般的には「一時所得=税金が軽い」印象があります。
雑所得とは
- 継続的・体系的に行う収入
 
- 例:副業、仮想通貨、継続的な馬券購入 など
 
課税対象額の計算式
収入金額 − 必要経費
雑所得になると、外れ馬券や関連費用も「経費」として控除できますが、
その代わり「継続的に利益を得るための行為」と認定されるハードルが高くなります。

② 負け投票券は経費にできるか
もっとも多い質問がこれです。
「外れ馬券って経費にできるの?」
答えは──
原則できません。
なぜなら、一時所得の場合、当選した馬券(的中分)に対応する支出しか認められないからです。
つまり、「外れ馬券=当たらなかったもの」は、一時所得の計算上は関係ない支出とみなされます。
ただし、後述の判例では、
継続的に・体系的に馬券購入をしていた場合は雑所得に該当し、外れ馬券も経費にできると判断されたケースもあります。

③ 判例:最高裁で争われた「馬券課税事件」
2015年に話題となった「大阪地裁→高裁→最高裁」の馬券裁判。
自動購入ソフトを使って大量に馬券を購入し、最終的に数億円の利益を得た男性が税務署に課税処分を受けた事件です。
争点
- 払戻金が「一時所得」か「雑所得」か
 
- 外れ馬券を経費として認めるか
 
結果
最高裁は、
「購入行為が営利を目的として継続的に行われ、合理的手法に基づくものである」
として、雑所得として経費算入を認める判断を下しました。
つまり、
「運任せのギャンブル」ではなく「継続的な分析・投資的行動」として行われていれば、
外れ馬券を経費とみなす余地がある──という画期的な判断です。

④ お笑い芸人じゃいさんのケース
2022年に話題となったのが、お笑い芸人「じゃい」さん(インスタントジョンソン)の競馬課税事件です。
累計払戻金は約7億円、税務署からは約1億円の追徴課税を受けました。
じゃいさんはYouTubeで競馬企画を発信し、「競馬は仕事の一環」と主張。
自動購入ソフトを使い、外れ馬券も経費として計上すべきだと訴えましたが、
税務署は「娯楽の範囲」と判断し、一時所得扱いとしました。
東京地裁も同様に、
「YouTubeで取り上げていても、明確な事業性は認められない」
として、外れ馬券の経費を否認。
結果、最高裁で雑所得と認められた「自動購入プログラム事件」とは異なり、
じゃいさんのケースは「継続性・体系性」が不足しているとして一時所得に分類されました。
この事例は、ギャンブルをコンテンツ化していても、税務上は娯楽とみなされるリスクが高いことを示す象徴的なケースとなりました。

⑤ 現金での購入はバレづらい?
多くの人が誤解しているポイントです。
確かに「現金で馬券を買って、そのまま現金で受け取る」場合、
金融機関を経由しないためデータ上は追えません。
しかし──
- 高額当選(100万円以上)は目立つ
 
- 税務調査では、通帳・生活費・家計簿の突合が行われる
 
- SNSやYouTubeでの「当たった自慢」から調査に繋がるケースもある
 
つまり、完全に“バレない”とは言えません。
特に近年はAIによるネット上の情報分析も進んでおり、
「見ていないようで見ている」のが実情です。

⑥ メガバンクの入出金データは税務署は見ている。地銀のデータは見ていない
これも現場でよくある質問です。
結論から言うと、
税務署は「メガバンクの入出金情報」を把握できる仕組みを持っています。
✅ 理由
- 税務調査の過程で、**金融機関に対する「照会権限」**があるため
 
- メガバンク(三菱UFJ・三井住友・みずほなど)は照会対応が迅速
 
- マネロン対策(犯罪収益移転防止法)による定期報告制度がある
 
一方で、地方銀行や信用金庫は照会件数が圧倒的に少なく、
システム連携も遅れているため、税務署が即時に追える仕組みは整っていません。
とはいえ、調査対象になった場合には「すべての口座」が照会可能です。
「地銀なら安心」と思うのは危険です。

⑦ 今後はAIでメガバンクのデータから税務調査対象が抽出される
国税庁はすでに、
AI×ビッグデータ分析による税務調査対象者の抽出システムを本格導入しています。
メガバンクの入出金データ・証券口座・電子決済・確定申告データなどを横断的に分析し、
「異常な入金・生活水準・SNS上の活動」などから確率的に“怪しい”人を自動抽出しています。
これはまさに「見えないAI税務調査」。
ギャンブル当選金のように突発的な収入でも、
- 預金履歴のパターン
 
- 消費動向(高額買い物)
 
- 所得申告との不整合
 
といった情報をもとに、システムが自動的に“赤信号”を出す時代に突入しています。

まとめ|「バレない」はもう過去の話
| テーマ | 要点 | 
| 一時所得と雑所得 | 継続的に利益を得る場合は雑所得、それ以外は一時所得 | 
| 外れ投票券 | 一時所得では経費不可。雑所得なら経費認定の余地あり | 
| 判例・事例 | 継続性・体系性が認められた場合のみ雑所得(経費OK) | 
| 現金購入 | 一時的にバレにくくても、調査で追われるケースあり | 
| 銀行データ | メガバンクは完全連携。地銀も時間の問題 | 
| 今後の動向 | AIによる自動監視・自動抽出が主流に | 
ギャンブルの当選金は「小さな確率」で得られる幸運ですが、
税務署にとっては「データで見える“異常値”」です。少額なら見逃されても、繰り返し・高額になれば確実にチェック対象になります。
もし心当たりがある方は、自発的な修正申告や相談を行うことが最も安全な選択です。
⇒無申告や税務調査に関しての面白動画はこちらから

この記事を書いた人

- 公認会計士・税理士
 - 
所属 公認会計士協会中国会 中国税理士会
公認会計士 第31637号
税理士 第128479号
1977年広島県呉市生まれ。会社が倒産した祖父と同業で起業した父の後ろ姿を見て育つ。青山学院大学経済学部卒業後、大手監査法人で幅広い業種の監査やコンサルティング業務を経験。その後、祖父及び父の経営していたような中小企業や個人事業主・フリーランスを助けるべく奮闘中。
日本全国の無申告・税務調査の対応件数は過去4年間で700件以上。IT/AIを駆使した業務効率化とサービス提供を行い、多くのお客様に最善のサポートを行っている。 
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