法人・個人事業主の税務調査に入られる確率ってどれくらい?
目次
税務調査とは
日本では、納税者自らが税額を計算・申告して税金を納める「申告納税方式」がとられています。
「税務調査」とは、この申告が正しく行われ、税金が正しく納められているかどうかを確認するために行われる調査のことです。
税務調査には、大きく分けて「任意調査」と「強制調査」の2種類ありますのでご紹介します。
任意調査
税務調査のほとんどのケースがこの「任意調査」と呼ばれるものになります。
「任意」と聞くと断ればいいじゃないかと思うかもしれませんが、そういうわけにはいかず税務調査自体を断ることはできません。
「任意」とは、突然事務所に押し掛けて、勝手に帳簿書類などの調査をしてはいけないということです。一応、「今から調査を始めますが良いですか?」ぐらいの確認を取ってから開始されます。
ただ、基本的に税務調査官から質問されたり、資料の提出を求められたりした場合は断ることはできません。すぐに答えられない正当な理由があれば、調査日を変えるなどの調整を行うことは可能です。
任意調査の中にも種類があり、税務署から「事前通知」があり日程調整をしたうえで行われるのがほとんどですが、たまに予告なしの抜き打ち調査が行われることもあり「無予告調査」と呼ばれます。
詳しくは税務調査の事前通知・無予告調査とは?どう対応すれば良い?に記載しているので、こちらをご覧ください。
強制調査
こちらが世間では「マルサ」と呼ばれる国税局査察部によって行われる調査です。
ドラマの題材にもなったこともあり、税務調査と言えばこちらをイメージする方も多いかもしれません。
強制調査は、裁判所の令状によって強制的に捜査が行われるため、任意調査のように日程調整などを行うこともできません。
悪質な脱税を立件するような時に行われるため、滅多にあることではありませんが、社会からの信用を損なうため大きなダメージを受けることになります。
税務調査に入られる確率
国税庁の発表によると、1年間のうちに税務調査を受けたのが「法人で約3%、個人事業主で約1%」という状況がここ数年続いています。
単純計算すると、「法人で約30年に1回、個人事業主で100年に1回」は税務調査にあたるということになります。
これを多いと見るか少ないと見るかは個人差があると思いますが、参考までに、車を運転する人が1年間で交通事故を起こす確率はおよそ1%というデータがあります。まさか自分が事故を起こすことなんて無いだろうと思っている人がほとんどだと思いますが、事故は突然起こります。誰の身にも起こりうることです。
これと同じで、油断してると突然やってくるのが税務調査というものです。
また、平成元年には「法人で8.5%、個人事業主で2.3%」の確率で税務調査が行われていると報告されています。
その頃と比べれば調査に入られる確率自体は低くなっていると言えます。
これは、調査件数が少なくなっているというよりも、申告件数自体が増えており税務署が対応しきれていないという現状を表しています。
税務署側としても、もっと調査件数を増やせるような取り組みを行っています。
税務調査の調査件数
確率が低くなっているのは、調査件数が少なくなっているからというわけではないと先ほど書きましたが、ここ最近は新型コロナウイルスの影響で調査自体が中止されていた時期もあったため、調査件数は減っています。
参考までに、法人税に対する実地調査が平成30事務年度(平成30年7月~令和元年6月)には99,000件行われましたが、令和元事務年度(令和元年7月~令和2年6月)は76,000件、 令和2事務年度(令和2年7月~令和3年6月)は25,000件 となっています。
新型コロナウイルスの発生が令和2年(2020年)の年明け頃だったので、かなり影響を受けていることがわかります。
コロナ禍での税務調査の動向
新型コロナウイルスの影響により2020年には一時中断もされてた税務調査ですが、すでに再開しています。
実際に、この記事を書いている2021年10月時点において、弊社に税務調査の立ち会い依頼の相談をいただくことが急増しています。全国的に緊急事態宣言が明け、税務署の動きも活発になっているようです。
減少した調査件数を取り戻すため、今後も積極的に調査が行われる可能性もあります。
また、実際に調査先を訪問して行う調査だけでなく、必要な資料を調査先に伝えて税務署に郵送してもらい、それを基に調査を行うという新しい形での調査や、税務調査のオンライン化に向けた検討も行われています。
そうなると、再び緊急事態宣言をしなければいけないぐらいコロナが拡大しても、税務調査を行うことが可能になります。
コロナの感染が拡大しているから税務調査は来ないだろうという油断はせず、どのような形の税務調査が行われようともしっかりと対応できるよう準備しておくことが大切になってきます。
国税庁のデータから見る 税務調査で狙われやすい業種とは
税務調査は追徴税を取るために行われるため、やみくもに対象者を選ぶことはしません。国税庁から、令和2事務年度の調査における不正発見割合の高い10業種が公表されています。
順位 | 業種目 | 不正発見割合(%) | 不正1件当たりの不正所得金額(千円) | 前年順位 |
1 | バー・クラブ | 53.7 | 23,857 | 1 |
2 | 外国料理 | 52.0 | 14,323 | 3 |
3 | 美容 | 37.5 | 15,650 | 10 |
4 | 医療保健 | 36.7 | 11,469 | – |
5 | 生鮮魚介そう卸売 | 36.2 | 35,927 | – |
6 | 一般土木建築工事 | 36.0 | 18,282 | 8 |
7 | 職別土木建築工事 | 36.0 | 18,287 | – |
8 | 中古品小売 | 33.3 | 11,508 | – |
9 | 医療関連サービス | 33.3 | 33,200 | – |
10 | 土木工事 | 33.2 | 13,939 | 7 |
やはり、不正の疑いが強い業種は狙われやすいと言えるため、ここにランクインしている業種は要注意です。
狙われやすくなるその他のポイント
その他にも、税務調査に狙われやすくなると考えられるポイントについて、いくつか例を挙げてみたいと思います。
数字の変動が大きい
今まで計上されていなかった費用が突然出てきたり、今まで変動の少なかった経費が急増していたりすると、税務署から経費の水増しを疑われて目をつけられる可能性があります。
もちろん、それが本当に必要経費であることを証明できる場合は、たとえ税務調査に来られたとしても全く問題ありません。
売上に比べて利益が少ない
税務署は、今まで蓄積してきた膨大なデータから、業種ごとにだいたいの利益率を把握しています。業界平均に比べて利益率が低く納税額が少ない事業所は、利益をごまかしているのではないかと目をつけられる可能性があります。
過去に税務調査に入られたことがあり、不正を指摘されたことがある
過去に税務調査で不正が見つかっていると、また不正をしているのではないかと疑われ、税務署から狙われやすくなります。
このような場合は、税務調査の頻度も多くなる可能性が高いので注意しましょう。
不正が見つかった会社と取引をしていたことで、芋づる式に調査される
取引先に税務調査が入ると、自社との取引に関する処理が正しく行われているか、自社に対して調査が行われることがあります(反面調査とも呼ばれます)。このとき、自社が無申告であることがバレてしまったり、自社でも不正を行っていたりすると、そのまま芋づる式に調査されてしまうことになってしまいます。
売上が1000万円弱の事業者
売上が1000万円を超えると、消費税の課税事業者となり、消費税を納める義務が生じることになります。
税務署側からすると、消費税を払いたくないがために売上が1000万円を超えないようにごまかしているように見えてしまうため、狙われやすくなるポイントと言えます。
近年、税務調査が強化されているポイント
近年、国税庁の方針で調査が強化されているポイントがあります。
以下に、簡単にまとめてみます。
消費税の調査
消費税については、虚偽の申告により不正に還付金を得るケースもあることから、不正還付の防止に向け、重点的に取り組まれています。
稼働無申告法人に対する調査
営業しているのに申告をしていない法人は、申告納税という最低限の義務を果たしていないため、国民の公平感を著しく損なうものであるとして、無申告法人に対する調査が重点的に取り組まれています。
海外取引法人等に対する調査
企業等の事業、投資活動のグローバル化が進展する中で、海外の取引先と通謀して不正計算を行うケースが見られているため、重点的に調査が取り組まれています。
富裕層に対する調査
富裕層に対する調査を強化することも明らかにされています。
ただ、どのような人が富裕層にあたるのか、その基準までは明らかにされていません。
しかし、2015年9月3日付の日本経済新聞において、富裕層の基準になっていると思われる基準が報じられています。
①有価証券の年間配当4,000万円以上
②所有株式800万株(口)以上
③貸金の貸付元本1億円以上
④貸家などの不動産所得1億円以上
⑤所得合計額が1億円以上
⑥譲渡所得及び山林所得の収入金額10億円以上
⑦取得資産4億円以上
⑧相続などの取得財産5億円以上
⑨非上場株式の譲渡収入10億円以上、または上場株式の譲渡所得1億円以上かつ45歳以上の者
⑩継続的または大口の海外取引がある者、または①~⑨の該当者で海外取引がある者
これらは国税庁から正式に発表されたものでは無いため、完全に鵜呑みにすることは危険です。ひとつの目安として参考にしてみてください。
赤字企業の税務調査に入られる確率は?
たしかに、追加で税金を徴収したい税務署側からすると、黒字企業を調査したほうがメリットが大きいため基本的には黒字企業がターゲットになりやすいです。
しかし、赤字だから全く調査が来ないというのは間違いです。
平成30事務年度に法人に対して行われた税務調査のうち約30%が赤字企業で、そのうちの14.6%が赤字から黒字へと転換し、納税義務が生じたと報告されています。
赤字企業全体で見た場合の確率を計算してみます。
この年の法人税の申告件数は292万9千件で、黒字申告割合は34.7%でした。
そこから考えると、赤字申告割合は65.3%でおよそ191万件もの企業が赤字だったことがわかります。
そのうちの2万9千件に対して調査が行われているため、赤字企業のうち約1.5%に税務調査が入ったことがわかります。
(参考:国税庁-平成30事務年度 法人税等の調査事績の概要:別表6(1)無所得申告法人に対する法人税の実地調査の状況)
(参考:国税庁-平成30事務年度 法人税等の申告(課税)事績の概要:2ページ目 法人税の申告実績)
儲かっているはずなのに赤字で申告されている、本当に赤字なのかどうかが怪しい場合には、税務署から目がつけられやすくなると言われています。
新規事業者でも税務調査は入るのか
起業して1~2年は税務調査に入られることはほとんどありません。
しかし、それで安心してはいけません。
税務調査は、通常は3年、問題が見つかった場合には5年、偽りその他不正の行為(脱税など)が見つかった場合は7年間さかのぼって調査されることになります。
通常で3年前までさかのぼるということは、起業から3年経過して調査に入ったほうがまとめて税金を取ることができるので、それまで泳がせて調査に行く時を待っているです。
最初のうちは調査されないからといって適当に申告したり、虚偽の申告をしたりしていると、いざ調査が入ったときに見つかってしまいます。
多額のペナルティが課されたり、税務署に目を付けられてしまい今後も調査に入られる可能性が高くなったりしてしまうので、事業を始めたばかりでも適正な申告を行うよう心がけましょう。
まとめ
■国税庁の発表によると、1年間のうちに税務調査を受けたのが「法人で約3%、個人事業主で約1%」という状況が、ここ数年の傾向です。
■最近はコロナウイルスの影響もあり、調査件数は減っていましたが、この記事を書いている2021年10月時点において、弊社に税務調査立会い依頼の相談をいただくことが急増しています。緊急事態宣言が明け、減少した調査件数を取り戻すため、今後も積極的に調査が行われる可能性もあります。
■国税庁のデータから、税務調査で狙われやすいと考えられる業種をご紹介しました。その他にも、狙われやすくなるポイントや調査が強化されているポイントについてもご紹介しました。
■赤字だからといって、税務調査が入ることはないと油断してはいけません。赤字企業でも、そのうち約1.5%に税務調査が入っています。
■新規事業者でも、起業から3年以上経過して調査に入られる可能性が高まります。最大で7年分遡って調査されるため、最初のうちは調査されないからといって適当に申告したり、虚偽の申告をしたりしていると、いざ調査が入ったときに見つかってしまいます。
税務調査についてご相談を希望される方は、弊社まで気軽にご連絡ください。
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