税務調査で見られるポイントとは? ~外注費か給与か~

次にご紹介する税務調査で見られるポイントは「外注費」です。「外注費」として計上されている費用が、本当は「給与」にあたるのではないかどうかが争点になりやすいところです。

外注費とは?給与とどう違うの?

外注費とは

外注費とは「請負契約もしくはこれに準ずる契約に基づいて受ける役務の提供の対価」と定義され、簡単に言うと、他の法人や個人事業主に業務の一部を委託した場合の費用のことです。

例えば、社内の掃除を外部の清掃会社に委託したときに支払う費用と考えればイメージしやすいでしょうか。

給与とは

給与とは「雇用契約もしくはこれに準ずる契約に基づいて受ける役務の提供の対価」と定義されます。会社に雇用され、給料をもらって生活している人がほとんどなのでこちらはイメージしやすいかと思います。

外注費と給与の違い

上述の通り、形式的な「外注費」と「給与」の違いは「請負契約」か「雇用契約」かといったところになります。

しかし、実際はこの違いだけで判断されるものではなく、業務遂行の実態に応じて判断されることになります。

形式上の請負契約を結んでいたとしても、実態が雇用関係にあるとされた場合には「外注費」ではなく「給与」であると判断されるのです。
この「外注費」なのか「給与」なのかの違いは一見すると大したことないように感じますが、実は非常に大きな違いであり、「外注費」の方が税務上のメリットがあります。

なぜ調査官は外注費に注目するのか

なぜこの外注費が税務調査において争点になりやすいのかと言うと、経営者が税務上のメリットを受けるために、

・架空の取引先からの請求書を偽造して、外注費の架空計上を行う

・本来は給与に該当するのに、無理やり外注費として計上している

というケースが非常に多いからです。

外注費として処理することの税務上のメリットとは、

①消費税の支払額を算出する際に、「仕入税額控除」という制度を利用することができ、消費税の支払額を減らすことができる。

②法人に対する外注費の場合は、源泉徴収義務がない(個人事業主への外注の場合は、支払う側で10%の源泉徴収義務あり)

③社会保険料を負担しなくても良い。

といったことが挙げられます。

このように、外注費か給与かの違いによって税務上の扱いが大きく異なり、無理やり外注費が計上されているケースが多いため税務調査で調査されやすいポイントになってきます。

外注費か給与かはどうやって決まる?国税庁が公表する5つの判断基準

では、「外注費」か「給与」かはどうやって決まるのでしょうか。

繰り返しになりますが、形式的な「外注費」と「給与」の違いは「請負契約」か「雇用契約」かといったところになりますが、実際にはこの違いだけで判断されるものではなく、業務遂行の実態に応じて判断されることになります。

国税庁から公表されている法令解釈通達をもとに詳しくご紹介します。

(参照:国税庁-大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて
これらを総合的に勘案して判断されるため、1つでも満たしていれば必ず外注費として判定されるわけではないということに十分注意してください。

他人が代替して業務を遂行すること又は役務を提供することが認められるかどうか

請け負った業務について請け負った本人ではなく他人を手配し、本人に代わって業務を遂行することができる場合は「外注費」、それが認められない場合は「給与」と判定される要因の1つになります。

報酬の支払者から作業時間を指定される、報酬が時間を単位として計算されるなど時間的な拘束を受けるかどうか

勤務時間や休憩時間などが委託元によって決められていたり、出勤日・就業時間がタイムカードなどで管理されており、それによって報酬が計算されていたりするような場合は「給与」として判定される要因の1つになります。

「外注費」として判定されるためには、受注した側がこれらの時間的な拘束を受けず、自らの裁量で決定できるようにしておく必要があります。

作業の具体的な内容や方法について報酬の支払者から指揮監督を受けるかどうか

業務を遂行するにあたって、委託元からの具体的な指揮命令を受けて、それにしたがって遂行される場合は「給与」と判定される要因の1つになります。

「外注費」として判断されるためには、業務の進め方について受注した側が決定できるようにしておく必要があります。

まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失するなどした場合において、自らの権利として既に遂行した業務又は提供した役務に係る報酬の支払を請求できるかどうか

これは、「業務が完全に遂行されなかった場合に報酬をもらうことができるかどうか」ということです。

完全に遂行されなかったのに報酬が支払われる場合は「給与」、支払われない場合は「外注費」として判定される要因の1つになります。

材料又は用具等を報酬の支払者から供与されているかどうか

業務の遂行に必要な物品を、受注した側が自ら準備して使用している場合は「外注費」、委託元が準備したものを使用している場合は「給与」と判定される要因の1つになります。

外注費が否認されるとどうなる?

外注費として処理することにより、

①消費税の支払額を算出する際に、「仕入税額控除」という制度を利用することができ、消費税の支払額を減らすことができる。

②法人に対する外注費の場合は、源泉徴収義務がない(個人事業主への外注費は、支払う側で10%の源泉徴収義務が課される場合もある)

③社会保険料を負担しなくても良い。

このようなメリットを受けることができることはすでに述べました。

では、これがもし「給与」に該当するとされた場合、どのようなことが起こるのでしょうか。

莫大な消費税を支払うことに

消費税は簡単に言うと、売上時に消費者からもらった消費税(受取消費税)から、仕入時に自分が払った消費税(支払消費税)を差し引いた差額を納めることになります。

(例)売上2000万円、仕入1000万円、税率10%とすると

「受取消費税:200万円」-「支払消費税:100万円」=「納税額:100万円」

という計算になります。

この支払消費税の部分を差し引くことを「仕入税額控除」と言います。

つまり、外注費として処理すればそこに含まれる消費税額を控除することができるのに、給与と判定されてしまった場合は控除ができなくなってしまうため、その部分の消費税を追加で支払わなければならなくなってしまうのです。

源泉徴収義務が課される

まず前提として、

法人に対する「外注費」の場合は、源泉徴収義務はありません。

個人事業主に対する「外注費」の場合は、外注先の業種によっては源泉徴収義務があります。(※委託元が「源泉徴収義務者」でない場合は、源泉徴収義務なし)

しかし、これらが「給与」と判定された場合には、源泉所得税の徴収漏れとなり、徴収漏れに相当する金額を支払わなければなりません。

さらに、「不納付加算税」や「延滞税」が上乗せされ、場合によっては「重加算税」の対象となる可能性もあり、多額のペナルティが課されることになります。

源泉徴収義務とは何なのか、外注費でも源泉徴収が必要となる個人事業主の業種は何なのか、といった話は、細かい規定等ありややこしくなるためここでは省略させていただきます。

社会保険料の負担も発生します

「外注費」が「給与」と判定されると、支払った相手が社会保険の加入条件を満たしている場合は健康保険料・厚生年金保険料などの社会保険料の一部を負担しなければなりません。

料率は自治体によって異なり、計算はかなりややこしくなるのでここでは省略しますが、3年分・5年分・7年分と遡って外注費が否認された場合には、かなりの金額になる可能性もあります。

外注費が給与と判定されないためにすべきこと

重要なので繰り返しますが、上述した5つの判定基準を1つでも満たしていれば「外注費」として認めてもらえるわけではありません。

業務遂行の実態を総合的に勘案して判断されるということを忘れないでください。

したがって、委託先が「従業員」ではなく「外注先」であることが第三者に分かるように「業務委託契約書」などの書類を作成しておくことはとても重要ですが、それだけではいけません。

外注先の業務管理をシフト表に組み込んだり、日数や時間単位で報酬の計算を行ったりなど社内の従業員と同じような方法で行っていると、実態は「従業員」なのではないかと疑われてしまいます。

例えば、外注先にも従業員と同じようにタイムカードを切らせて勤務時間の管理を行っているということで、実態は従業員と判断され外注費が「給与」に覆される可能性があるのです。

また、外注先が確定申告を行う際に「事業所得」として申告してもらうように伝えておくことも大切です。支払い側が「外注費」として計上しているのに、外注先が「給与所得」として申告していると矛盾が生じてしまうからです。

このように「外注費」が否認されないようにするためには、しっかりと対策をしたうえで費用計上を行う必要があるのです。

外注費が給与として判断された実際の判例

国税不服審判所という機関のホームページに、税に関する裁判の実際の判例が掲載されています。

その中に、外注費が否認され「給与」として判定された事例について掲載されているので、これについて引用してご紹介します。(引用:国税不服審判所-給与等

職人に対し支払った報酬は外注費ではなく給与に該当するとした事例

まず、どのような裁決が下されたのか引用します。

『請求人が支払った報酬は一人親方に対するものであって、外注費として取り扱うべき旨請求人は主張するが、本件報酬について、各職人の労務の提供は、職人個々の独立した事業として行われたものとは認められず、かつ、その労務の提供の対価は基本賃金のほか時間外勤務手当等の支払基準により支払われていることからして、請求人と職人との間の雇用契約書の作成はないものの、その実質は請求人がこれら職人を雇用の上、その就労の対価、すなわち給与等として支払ったものと解するのが相当である。また、仮にこれら職人が請求人主張の一人親方に当たるとしても、その支払う報酬が当該親方の危険と計算によらず、請求人の指揮監督の下に提供された労務の対価としての性質を有するものであれば、所得税法第28条第1項に規定する給与等に当たるとみるのが相当である。』

この事例では、一人親方に対する報酬が「外注費」か「給与」かで争われています。

委託元は、雇用契約書が作成されていないので「外注費」と主張していますが、

・報酬の支払いが基本賃金や時間外勤務手当等の支払基準により支払われている点

・委託元の指揮監督の下に行われた労働の対価としての性質を有する点

から、形式的には雇用関係にはありませんが、その他の状況からその実態を総合的に勘案して「給与」であると判定されているのです。

まとめ

■外注費は給与よりも税務上のメリットが大きく、本来は外注費では無いものまで計上されていることが多いため、税務調査で調査されやすいポイントになります。

■「外注費」か「給与」かを判定する基準はありますが、業務遂行の実態を含めて総合的に勘案して判断されます。

■外注費ではなく給与と判定されると、消費税・源泉所得税・社会保険料の支払い額に影響が及びます。税務調査は基本的には3年、問題の程度によって5年・7年と遡って行われるため、数年分の金額となるとこれらだけでも結構な額になることが考えられます。

■実際に、一人親方に対する報酬を「外注費」として費用計上していた事業所があり、雇用契約書が作成されていないことを理由に雇用関係では無く「外注先」であると主張しましたが、業務の実態から雇用関係があると認められ「給与」であると判定された例があります。

■外注費が給与と判定されることを防ぐために、従業員と外注先はそれぞれ明確に区別して管理しましょう。

税務調査について不安がある方は、お気軽に弊社までご相談ください。

この記事を書いた人

税理士法人CUBE
税理士法人CUBE
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